きもの落語

演題 「帯、上げ下げ」
一席おつき合い願います。

きもの落語

<桃太郎、お福の呉服屋はんじょう記>

  演題 「帯、上げ下げ」

   帯を、なぜ高めに結ぶ

  えー、一席おつきあいを願います。

わたくしたち男どもが、結婚式やパーテーなどに出席いたしますと、和服をお召しの御婦人方には、つい見とれてしまったりするもんでありまして…美しいもんでありますなー…

式場のホールで、格調の高い色留袖や黒の江戸妻に、『正倉院文様の帯』などを胸高にキッチリとお結びになられましてな、御主人に控えめに添っておられたり、
こちらの方では、華やかな訪問着に『唐織りの帯』を合わせましてな、お酒も少々入っているんでしょうか、頬を少々赤らめてるってえお姿、いいものでありますな〜…


まあ、男どもはきもの姿の女性には憧れるんでございましてな、
会場で一緒の御主人でさえ、いつもと違う…、いいえ、ぜーんぜん違う奥様をほれぼれと見直しましてな、こうなりますと、しばらくの間は会社帰りが早かったりいたしますそうで…

独身のお嬢さんはてえとなりますと、豪華な振袖に、これまたすばらしい帯を高々と結びましてな、「今度は自分の番!」とばかりに、花婿さんの御友人に、千載一遇この場にありとばかりに、『袖を振って』アピールされていらっしゃる!…

なんてよく拝見しますが、実は会場の外では、彼氏が車の運転席で心配そうに待っていたなーんて…

いえいえ、別に車だけが頼りのあわれなおにいさんを、どうのこうのと言う「テーマ」ではございませんので…

えー、今回のテーマは「帯を結ぶ高さとは…」を、お話申し上げようってことでございます。

帯を結ぶ高さ具合を思い返すには、昔の映画なんかを思い出されてご参考になさると話すほうも助かるんですが…

登場いたします粋な年増のご婦人。ちょっとわけあり感じで妖艶さをたたえていましてな、こういうご婦人などは、『前帯』を・少々ハス・に廻しましてな、『おたいこ』の方はてえと、大きめに張ったおたいこを、・かなり落としぎみ・に結んで居る場面を思い出して下さるとありがたいんでございますが…


また、お武家姿の御婦人は、一様に帯を・胸高・にビシーッと結んでおられますなあ…
胸高に帯を結びますと、気品が表れてまいります。
白髪のお武家のお婆さん…、いえ、お婆さまの方は、多少『小さめなおたいこ』を・少し下げぎみ・に結んでおられます。

町人姿の大家さんのおばあちゃんに至っては、帯が・お尻にひっかかって・、なんとかずり落ちない程度に、・らくーに・結んでおりまして、いろいろな人達が銀幕に出て参りますが…

帯結びが『高い、低い』が、なにを表しているか、今日のテーマでございますが…

毎度おなじみの、桃太郎とお福さんの呉服屋「大黒屋」でございますが…

お福さんは、今日も張り切っていましてな、里のお母さんのおさがりなんでしょうか、紺絣の紬に赤い裾まわしをあしらった袷の仕立て。抽象模様を絵付けた赤錆色の染め帯を胸高に、ピシーッと決めております…

てなせりふ。これは現代の風俗なんでありましてな、桃太郎の活躍する時代は室町時代といわれておりますから、一般の庶民はほとんどが『麻地』のきものであります。

このきもの落語は、とても都合良くお話させていただいていますが、・きものや帯の知識と和服にまつわるしきたりのお話し・がねらいなんでございまして、多少の無理ばなしもご寛容を賜りたいとおもいます…

お福さん。ピシリと決まった帯姿、すがすがしいものでございましてな…
奥のほうからは、おばさんが登場してまいります。

昔ばなしでは桃太郎の育ての親でございますから、お袋さんと呼んでよいのではないかと思うんでございますが、やはりおばあさん!ということにいたしましょう。
おばあさん。今年、お幾つなのか、昔話でございますから、六十才?、いや七十肩?…
つまりナン十肩か判りませんが、おばあさんの肩がやめるんで、手が少し後ろにまわりにくいということで、お福さんが帯結びの手伝いをしております。

「いや、助かったれね。お福さん、おめさんから帯を締めてもろうと、ほんのきにらっくりして、ばかいいんだてばね」
越後新潟市近辺の方言でございますから、訳させていただきます
「まー、お助けありがとう。お福さん、あなたから、帯を結んで頂きますと、とてもゆったりと結んでくれるので、ほんとうに気持ちがよいのです」

お福さん、いつもの福々しい笑顔でおばあさんの襟元を直してあげていましてな、
「そうせば、川むけの友達んとこ行ってくるすけ、爺さ、たのむれねー」
訳します
「それでは、川向こうの友達の家に行って参りますから、お爺さんの事、宜しく頼みますよ」
優しいおばあん、呉服屋のおばあさんらしく、おしゃれなうしろ姿を残してお出かけになりましてな…

店の隅では、我らが桃太郎。仕事も手伝わず、自分のお嫁さんお福さんばかり、ボーと眺めておりまして、

「お福。おばあさんは、ふだんは帯を少し低めに結んでいるようだけれど、あれは着慣れているからなの?」

「はい、おばあさんの着こなしは抜群よ」
「お福も着上手なんだから、もう少し帯を低く結んだらどうなの…」
言われてお福さん、少々カチンときましてな、…

このお福さん、カチンときますと、なぜか里の近江方面の言葉が混じって出てまいります。「びっくりしてんね!桃太郎さんがそんなこといわはるんか…信じられへん」
「・・・」
「私の桃太郎さんへの気持ち、わかってるとおもうていますに…」

そばで、お店の手伝いをしていた、家来の猿とキジが
「ほッら、また始まった」
と、身構えましてな。もう1匹の家来の犬は、
「犬も食わないケンカ」
と、なりゆきをみておりますと、

「帯を少し低く結んだら、と言っただけなのに、お福はなんで怒っているんだい?」
桃太郎には、お福が怒っていることの見当がつきませんでな…
「私、単純なんやなー。なんやろ、すぐに顔に出してしいました…。桃太郎さんかんにん…」
賢いお福さん、ちょっと息を整えましてな…言葉も標準語に戻ります。

「桃太郎さん、殿方は、おんなの帯の結び具合を見れば、自分をどのくらい好きなのか、判ると言われておりますのよ…」
「・・・?」

    



  帯はおとこの分身     



「桃太郎さん。殿方は、おんなの帯の結び具合を見れば、自分をどのくらい好きなのか、判ると言われておりますのよ…」

「・・・?」


桃太郎の方は少しほっとはしておりますが、帯の結び具合でお福さんの熱愛度が判るはずもない凡々でございましてな、
脇の方でなりゆきをうかがっておりました知恵者の猿は、相棒の犬とキジに聞かせます。
「うろだんらかわらえまお」
「んらかわ?」

家来達の内緒話、お読みのお客様もお解りにならないでしょう?
桃太郎の家来達は、内緒話は逆さまに言ってるんでありましてな…

ややこしいんで、猿知恵の解説をさせていただきます。


「犬、キジ。判らないのか?…お福さんが怒って、里の近江弁が出る時は、決まって『桃太郎さんを好きだ、嫌いだ、桃太郎さんがよそ見した!』って、話が出た時なんだよ!…つまり、惚れたはれたの、熱愛度を確認する夫婦ケンカなのさ!」

「猿。どうもそれだけではないと俺は見てるんだ…」
と、キジは羽根を広げて高いところから見ようって飛び上がりましてな、
・高みの見物・てえのは、このとき生まれたそうで!?…なんてえ話は、その辺でおしゃべりしないで下さいね。お願いですよ。


「桃太郎さん。『帯が男の分身』と言われるのをご存知でしょうか?」
「…う、うん?…」
「結納の席では、花婿さんから、花嫁さんに『帯』が贈られます」
「帯が納まるから『結納』だよね?」

「昔は車も電話も無い時代でしたでしょう、女性達は婚約しても、なかなかデートはできませんでした。逢いたくとも逢えない娘達は胸が痛みます。胸が痛むとき、彼からいただいたた帯を「胸高」にキュッと締めて耐えたのです」

「恋しいと胸が痛むからねー…」

「桃太郎さん、うれしゅうおす!…娘さん達の帯結びが胸高なのは、その為!ってことお判りになったでしょう」
「うんうん。なるほど…」

えー、地方によっては、殿方がご婦人に『帯』を送る習わしは最近までもあったと聞いておりますな〜…
たくさん貰ったご婦人は、つまりはモテる方ということになります。
『帯』を贈られて名誉なこと、くらいな気持ちで受け取って、それとなく片づけておくご婦人。
また、うれしくてしょうがないひとは、朝から結んだり、ひとにみせたりして舞い上がったりされたご婦人もいたんでしょうな〜、


娘さんがお嫁に行くときになりますと、親御さんが『帯』だけはタンスにいっぱい詰めて上げましてな、親心の深さがわかりますな〜、
深い、深い親心でございまして、おしゃれの真髄であります「きもの1枚に帯3本」と、タンスに詰めているふうにみえます。
もっと深い親心は、「うちの娘を大事にしないと、代わりはいくらでも居るんですヨッ」と、新婿さんにプレッシャーを掛けた、大変なしつらえでもあったそうでございまして…


「・・お福も、帯をいっぱい貰ったの?」
「さあ、どうでしょうか…あとでタンスなんか開けないでね」
「開けたい」
「ダメです」

となりの部屋でニコニコと聞いて居た、お爺さんが
「おもっしぇなってきたれー。今度は桃太郎の方が近江弁を出すれー」
越後新潟のことばですから訳します。
「おもしろくなってきたわい。桃太郎のほうが、近江弁でしゃべることになりそうですぞー」

そこは我等が桃太郎!
「・・お福は、僕と結婚しても、帯を高めに結んでいるよね」
「当然ですわ。桃太郎さんが京都や産地に出かけられ、帰りを待っている時などは、胸が痛むのよ」
「そんなに僕の帰りを待ってたの!」
「はい…」

皆さん!こういう場合、皆さんも「はい…」と答えますでしょう?
それも、小さい声で恥ずかしそうにですよ…。そうです、演技、エンギ!…

腹の中では、たまには居ない方が、せいせいしていいとおもいましても「はい…」と答えて下さいませ。

これが、大きな声で「ハイ!」と答えてごらんなさい。胡麻スリだってことが、いっぺんにばれてしまいます。

「お福。さきほど出かけたおばあさんの帯は、かなり低めに結んであったねー」
「そうでしょうか…」
「おばあさんくらいの年齢になると、『たまには、一人もいい』とか思うのかな〜…、だから…」

「だからって?」
「胸の痛みも段々薄らいで、帯も下めに結ぶようになった…」

桃太郎、急に何を思いましたか、
「うッハッハッハッ・・内のおばあさん、結婚式の時はピシッと帯を結んでいたのに、普段は下げて結んでいる。それも腰までも下げているってのは、おじいさんのことを想っても、胸なんてぜんぜん痛まないってこと、ワッハッハッ・・」

さすがのお福さんもカチンと参りまして
「もオッ、私達おんなを馬鹿にせんといて!明日から、桃太郎さんをほっといて、私も帯を下げて結びますう…」

てんで、ひと風吹きそうな空気のところへ、となりの部屋から、お爺さんが転がり込むように、入って来ましてな、
「お福さん!わしに、ばばの帯一本売ってくんなせや(お福さんや、わしに、おばあさんの帯を、一本売ってくれ)」

そこへ、「帯の仕立屋」が、お店に入ってまいりまして、
「毎度どうも!」
と、風呂敷をひろげ、見事に仕立て上げた帯を差し出して、
「桃太郎社長。御注文ありがとうございました。若奥さんの『帯が、上がりました!』」

  おあとがよろしいようで・・

        「帯、上げ下げ」 完

             文・ イチコクヤ亭主

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